: 雨音 Scene:6 :


             レッドリング
「……やっぱり、“赤い輪”は一人じゃなかったのかも」


俺にはニューマンという奴が良く分からん。
それとも、これは彼女がフォースだからか。


「彼女は、遺跡のその記録を残すまで、
 ただの一度も、自分が一人だとは言っていないわ」


……なるほど、理屈では確かにそうだ。
彼女は、はじめから“自分が一人だった”とは言っていない。

「誰かと一緒だったとして、誰をエスコートに選んだんだろうな」

 レッドリング
“赤い輪”にくっついて行くなんざ、おいそれと出来る事じゃない。
命がいくつあっても、足りない。


「……爆発事件の、生存者」


「……なんだって?」

                               レッドリング
記録によると爆発事件があったあの日、“赤い輪”は、ドーム周辺のどこかに
いたらしい。
惑星の調査・開拓のために。


だとしたら。
ドームの外にいて爆発を免れたのが、彼女だけであるはずがない。


一次開拓移民の基本的な仕事は、その名が示す様に開拓だ。
調査も重要な仕事だ。

                 レッドリング
専門と言う訳でも無い“赤い輪”が、外で調査をしていたんだ。
当時、いくらか遠出をしていた者も、居て当然だ。


「彼女が、生存者たちを率いていた……?」


家族や友人、愛しい者を失い。
ようやく作り上げた、闇に怯えずに眠れる場所を失い。


そんな彼らが、自分たちが奉り上げた英雄に縋らないはずがない。


……確かにあの記録は、そんな連中に語りかけているように、思えるくだりもある。
出発に遅れた者や、出会えなかった者もいただろう。
しかし、仮にそうだとしても――いや、そうだとしたら――疑問が残る。

 レッドリング
“赤い輪”は、どうして地下を目指したのか。


わざわざ俺たちのために――これまでの話でいくと、違うのかもしれないが――情報
を残して行くような面倒見のいい彼女が、自分の身を守れるかも定かでない連中を、
より危険な地下へと連れ込んだのか。


まあ、洞窟へは、雨露を凌ぐために、たまたま見つけた穴倉に入っただけかもしれな
い。
記録では、彼女は洞窟の存在を知らなかったようだ。


だが、洞窟の変異動物の危険度は、森の原生生物の比ではない。
それでも彼女が奥へと進んだ理由。


「……彼女は、洞窟の奥に、生存者らを救う手立てがあると思ったんだろうか」


「そうかもしれないわね……でも」


そう。
馬鹿げている。


あそこは、確証もなく入っていい場所ではない。
森を生き延びたハンターズが、何人となく死んでいった場所だ。
 レッドリング
“赤い輪”が、それがわからない程度のハンターズであったはずがない。


と、なれば。

レッドリング
“赤い輪”は、希望的観測によって進んだのではない。


「そこに、救う術があることを知っていた、と見るほうが自然だわ」

      レッドリング
では、“赤い輪”は嘘をついていたことになる。


誰に?


後に続くものたちに。
俺たちに対して、というような気の長い話ではなく、すぐ後ろに続くものたちにだ。

          レッドリング
「……つまり“赤い輪”は……」


「パイオニア・ファースト政府の陰謀……と、
 言うものが本当にあったとして、彼女は、それを知っていて、助けを求めた」


ニューマンの女は空になったグラスを置いて、しなやかな指先で軽く弾く。
程なくして同じ品が出された。


「……面白い話だな」


「こんな夜には、悪くないでしょう?」


また、雨音とキャシールの駆動音だけが聞こえる。


心なしか大きくなった雨音は、まだ止みそうにない。




<back △novel top next>