: 雨音 Scene:1 :


ここは、何処と言う訳でもない。
その辺にある、すっかりくたびれた、酒が飲める店だ。


俺たちがこの惑星にきて、もう随分経つ。
……と、言っても、その惑星は未だ眼下にあって、俺たちの定着を拒みつづけている。


奴らが、それを許さない。


原生生物、変異生物、機械に……ありきたりな言い方をすれば“化け物”。
さして頭がいい訳でもない、数が多いだけの、下らない下衆ども。


そんな下らない奴らを相手に、俺たちは何をしているのだろう。


……馬鹿げているのさ。
だいたいが。


特に奴らの親玉なんてのは、最悪だ。


“不滅の邪神”だと?
そんなものはナンセンスだ。
俺がライフルの照準を額――だと思う――にあわせて引き金を引けば、馬鹿でかい
あの糞ったれは――大きさからすりゃ蚊が刺したようなもんのくせに――死んだじゃ
ないかよ。


……しかし現に、未だに“敵”は湧き出てくる。
あの糞ったれも、未だ健在のようだ。


終わらない戦いの日々が続いている。
今日も、どこかの誰かが、死んでいく。


昨日は、たまたま長い付き合いになった相棒が死んだ。


“最強”なんじゃなかったのか?
ハンターさんよ。


フォトン射出兵器があるのに、わざわざ接敵距離で戦うなんざ、俺たちからしてみりゃ
まったくナンセンスだ。


《たった今、自分が殺そうとしてる奴の目が見えるところで戦うっていうのは、
 嫌なもんだ。
 死んでいく奴の目は……何て言うのかな、怨念とか、そんなんじゃない。
 虚ろなんだ、とても。
 人形みたいに真っ暗で……じぃっと、俺を写しているんだ。
 それを見てしまったら一生、執り付かれる。
 夢に見て、飛び起きて……そんな自分を笑い飛ばして、また眠るのさ。
 ……それが、何かを殺すことでしか生きていけない俺たちの……不器用な俺たちへの》


《お前たちへの、何だ?》


《……罰だ。
 血濡れた両手で地べたに這いつくばって……いつか同じように、穏やかでない最後を
 迎えるその日まで、苦しみ殺しつづけるようにって、“神様”が言ったのさ》


《そんなものは》


ナンセンスだ。


照準ごしの標的にむかって引き金を引くだけの俺には分かるはずもない。
相手の血に染まることもない、彼方から死を送り込むだけの俺には。


……それでもな。
何故だか分からないが、俺は悲しくて、悔しくて、どうしようもなく腹が立つんだよ。
お前が格好つけて言った長ったらしい台詞が、こうもはっきり浮かんで来るんだよ。


どうしてだろうな、戦友。


安い酒だが、味は悪くない。
同じのを、もう一杯もらおうか。


ドアのベルが鳴る。


開いたドアの向こう、滲んだ夜の街並みを背景に――しまった、予定表じゃ、今夜は雨
だったか――黒くて飾り気の多い服を着たニューマンの女が立っていた。


「いらっしゃいませ」


キャシールのマスターが綺麗な声で迎えた。




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